2022.06.09
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長く安全・安心に暮らせる住まいのユニバーサルデザインについて

皆さんは「ユニバーサルデザイン」という言葉をご存じでしょうか。「子どもから高齢者まで誰にでも安全で使いやすい」デザインのことを指しますが、これは住まいにとって非常に重要な要素です。この記事では、その具体例を示しながら「住まいのユニバーサルデザイン」について紹介します。
 

大小さまざまな配慮からなるユニバーサルデザイン

「住まいにとって良い『デザイン』とは。知っておきたい基本的なこと」という記事の中で、ハイレベルなデザインが施された住宅とは、「設計に無理がなく、見た目にも優れていて、なおかつ暮らしやすい(使い勝手が良い)ことを全て兼ね揃えたもの」という旨を書きました。
 

このうち、「暮らしやすい(使い勝手が良い)こと」を実現するものの1つが、ユニバーサルデザイン(UD)です。これは住まいに限定されるものではありませんが、お年寄りから子どもまで長く安心・安全、快適に暮らせるようにするための重要な要素となります。
 

勘違いされている方がいるので念のためですが、段差がないことを表す「バリアフリー」=UDではありません。後者は前者を含む幅広いもので、住まいの大きな部分から細かい部分にまで及びます。
 

ユニバーサルデザインを採り入れたものは様々。例えば調理器具もその1つ


では、大きな部分から見ていきましょう。まずは階段について。2階建て以上の住宅には当たり前に存在するものですが、年齢とともに足腰が衰えると毎日の上り下りが負担に感じてしまうようになります。
 

毎日使う階段には安全の配慮が必要

近年、お年寄りによる戸建てからマンションへの住み替えの事例が増えていますが、それは上記のような事情があるのです。また、毎日使うものだけに安全に配慮されていることが大切ですが、ではUDの視点でみるとどんな工夫ができるのでしょうか。
 

最初にあるべきかたちを記しておくと、手すり・踏み板→階段の形状→ホームエレベータの順にUD的な配慮を高めることができます。このうち、手すりについては握りやすいよう形状に配慮されたものが存在します。
 

UDの考え方が採り入れられた階段。傾斜が緩やかで踊り場が設けられており、握りやすい手すりも取り付けられている


踏み板も、足を載せるのに十分な幅と滑らない素材とすることで安全性が高まります。階段の形状を直線階段ではなく折れ曲がり階段とすることでUD性がアップします。踊り場があるようだとさらにベターです。
 

これらは階段からの転落を予防する、あるいは転落しても途中で体が止まることで大ケガのリスクを低減するための配慮です。さらに、階段全体の傾斜が緩やかになっていると、なお良いでしょう。
 

最後のホームエレベータは、階段からの転落はもちろん、上下階の移動の負担を限りなく減らせるアイテム。高齢者はもちろん、車イス生活者にとっても生活の質を高める上で高い有用性があります。
 

外構のUD化でさらに将来の暮らしやすさを向上

ちなみに、住宅内の上下移動を必要とする場所として、玄関までのアプローチ部分があります。玄関は基礎より高い部分に配置されており、この部分には段差(階段)が存在しますが、この段差も車イス生活者や高齢者にとって不便に感じることがあるのです。
 

アプローチ部分の事例。スロープではないが傾斜がゆるい階段となっており上り下りしやすい


そこでお勧めされるのがアプローチ部分をスロープにすること。スロープだと車イスに乗った人でも容易に建物に移動できるからです。アプローチに十分な幅を持たせることでさらにUD性が高まります。
 

アプローチ部分自体にも手すりを設置すること、さらに玄関ドアについても車イスの人でも開閉しやすい引き戸タイプとすることなどにより、より一層高度なUDが実現でき、将来、足腰が衰えても暮らしやすい住まいにすることができます。
 

以上のことは、要するに庭などを含めた外構についてもUDを高める事例ですが、このことから住まいの細部の安全性や使い勝手への配慮が重要であることがご理解いただけるはずです。
 

都市型住宅では特に配慮が必要

話を階段に戻すと、敷地や居住空間の点で余裕が少ない都市型住宅では、傾斜が急になるといった無理が階段に生じやすい傾向があります。やむを得ないケースもあるでしょうから、少なくとも手すり設置での安全性を高めるなどの工夫をすることをお勧めします。
 

また、同様の理由で都市型住宅では2階や3階にリビングを設置する場合があります。この場合、毎日、買い物袋を下げて階段を上り下りするわけですが、足腰が弱くなった際には家事の面で負担を感じる機会が増える可能性があることを理解しておくべきでしょう。
 

ですので、UDの観点からは上階へのリビング配置はあまりお勧めできませんし、仮にこの間取りとする場合にはエレベータの設置を積極的に検討されるべきだと考えます。以上がUDに関する「大きな部分」です。
 

さて、「細かい部分」に関しては実に多岐に及びます。その中でも、比較的大きめなものとして浴室があります。浴室は階段と同様に家庭内での事故が多い場所です。特に高齢者にとっては、命に関わる場所でもあります。
 

浴室も家庭内事故が起こりやすい場所の1つ

というのも、浴室で溺死事故なども数多く発生しているからです。ですので、近年の浴室には様々な箇所に手すりの設置が推奨されていますし、浴槽内にも手すりがあるものも用意されています。床も滑りにくい素材が採用されたものが増えています。
 

浴室の事例。浴槽側面に段差があることで立ち上がることが容易になっている


このほかでは、例えば室内ドア1つとっても、わずかな力でドアノブを操作できるもの、指をケガをしないようにする挟み込み防止の仕組みや、風圧などで強く閉じてしまわないようにする仕組みが採り入れられているものなど様々なタイプが登場しています。
 

急に閉じないように工夫された扉。指を挟む心配がない


もう1つ事例をあげておくと、玄関回りがあります。立ち上がりやすくする手すりの設置のほか、土間にベンチを設けておくと、足腰が弱くなったお年寄りなどにとっては大変便利になります。以上が代表的なUDの事例です。
 

玄関部分に設けられたベンチ。使わない時は折りたたむことができる。
なお、これは集合住宅に取り付けられたもの。注文住宅ならさらにデザイン性に富み、使い勝手を良くすることができる


ところで、国や自治体は既存住宅について、補助金によるバリアフリーリフォームを推進しています。バリアフリーはUDの1つですが、そうしないといけないくらい、これまでに建てられてきた住宅はUDが導入されてこなかったのです。
 

言葉を換えると、建築後にお年寄りや障害をお持ちの方にとって暮らしやすい仕様に住宅を変更するのは大変だということです。ですので、新築時にできうる限りのUDに関する検討を行い、導入しておくことが推奨されるわけです。
 

トイレも手すりの設置はもちろん、空間や入り口の大きさを広げることで、さらにUD性を高めることができる

UDは住まいの善し悪しを推し量る物差し

それから、もう1つ大事な視点をご紹介しておきます。それはUDには広がりがあることです。例えば温度のバリアフリー。建物の断熱性を高め、部屋間や上下階の温度差が少ない住環境にするということです。
 

こうした住環境が実現できれば、特に冬に懸念され、お年寄りが体調を崩す病気(脳梗塞や心筋梗塞など)の発生原因になるヒートショックのリスクを軽減し、健康寿命を延ばす効果が期待できます。
 

以上のように、UDには暮らしの安心・安全に優れた効果があります。今回ご紹介したもの以外にも様々なUDの事例があります。また、UDの考え方を子育て・子どもの健全な成長に広げた「キッズデザイン」も存在します。
 

住宅展示場のモデルハウスを訪れる際、どこにそれらの要素が隠されているのかを確認しながら見学してみましょう。また、分譲住宅を見学する際にも、同様の視点を持っておくと良いでしょう。
 

特に、分譲住宅についてはUDを積極的に採用しているものと、そうでないものの間に明らかな違いがあり、それが善し悪しを判断する材料の1つになります。いずれにせよ、そんな視点を持ちながら見学をすることで、住まいづくりに役立つ新たな発見やヒントが見つかり、とても有意義な時間を過ごせるはずです。

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