2021.11.11
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家を建てる前に知っておきたいこと

注文住宅
ノウハウ

家を建てる!とは決めたものの、いったいどこから何を考えればいいのかわからない。そもそも家ってなんだろう……と、迷走中の人もいるのではないでしょうか? というわけで、建築家・佐川旭さんに教えてもらいました。家を建てるにはもちろんノウハウも大事だけれど、その前にちょっと知っておきたい「家」の話がありそうです。

佐川旭(さがわ・あきら)/1951年福島県生まれ。一級建築士。株式会社佐川旭建築研究所代表。日本大学工学部建築学科卒業。主な著書に『住まいの思考図鑑』や、台湾、韓国、中国でも出版されたベストセラー『最高の住まいをつくる「間取り」の教科書』、監修に『リフォーム業務が一番わかる』、『はじめてのマイホーム』など多数。一般住宅、公共施設のほか、岡山県新庄村や福島県飯舘村の村づくりアドバイザーを務めるなど、まちづくりのプロジェクトでも活躍する。

 

漢字で知る「家」のこと。

佐川:家について考える時、私は言葉をヒントにすることがあるんです。

——言葉、ですか?

佐川:日本には春夏秋冬があるので、一年を通してどのように快適な温度をつくっていくかを考えないといけないのですが、そこが難しいところでもあるし、また面白いところでもあります。

——なるほど。

佐川:そこで一つ、「窓」という漢字について。日本の窓はもともと「間戸」と言われ、現代の「窓」はヨーロッパで言う「window」、つまり風穴のことで、「間戸」とはちょっと違うんです。

——間の戸というのは、どういうことでしょう?

佐川:光や熱、通風を引き戸で調整して、内と外を仕切っていくという考え方です。間戸はただの“風穴”ではないということですね。

——確かにヨーロッパの窓は、一般に小さく上に押し上げたり、外に向かって開く形になっていますね。横にスライドさせる窓は見たことがないかも。

佐川:気候風土によって、同じ窓であっても漢字で理解すると意味合いが全然異なってくるんです。ほかにも「玄関」という言葉には、玄妙に入る関門という意味があります。これは禅の言葉で、玄妙とは奥が深く悟りの境地の意味があり、関門は明らかに関所の門のことです。それを縮めて玄関です。つまり玄関は心の切り替えの場で、外で嫌なことがあったとしても心を静め暗い気持ちから明るい気持ちにリセットするための空間であるということです。

玄関は心を切り替える場でもある(設計:佐川旭建築研究所)

——わぁ、禅の考え方が現代の家にも残っていると思うと、面白いですね。

佐川:神というのは、大きくとらえると「自然」ということですから、自然と共に生きてきた日本人の思いを感じることができますね。最後にもう一つ、天に井戸があるわけでもないのに、なぜ「天井」と呼ぶのでしょう?

——天井……。うぅ、わからないです。

佐川:天とは、神様のこと。天からの光が井戸のようにずっと続いてるという意味で、天井となったそうです。そう考えると、いつもの天井が少し違って見えてきませんか?

設計:佐川旭建築研究所

——ええ、なんだか天井がすごくありがたいものに思えてきました。それぞれの場所につけられた名前には、ちゃんと意味があるんですね。そういうこと知ると、家をつくるときにすごく考えが変わる気がします。

佐川:そうでしょう(笑)。今は、居間=リビング、台所=キッチン、便所=トイレなど、多くの空間をカタカナで呼ぶようになりましたが、非常に画一的で、平たくなってしまうという側面もあります。仕方のないことだとは思うのですが。でも、改めて空間の成り立ちや言葉を拾い集めることによって、空間の見方に膨らみが出てくるものです。また、これまでの生活を改めて見直すことができ、住まいづくりのヒントにもなってくれると思います。

 

家を建てる前に、ライフスタイルを知る。

佐川:突然ですが、「あなたのライフスタイルってどんな感じですか?」と聞かれたら、どう答えます?

——……夜は11時に寝て、朝は7時に起きて……。それくらいしかパッと浮かびません。

佐川:そうですよね。ライフスタイルとはよく聞く言葉なのですが、実は具体的に言おうとすると難しいものです。でも、家を建てる時に、そこに住む自分たちが普段どんな生活をしているのか考えてみるのは、大事なこと。

——日々の暮らしのなかで使いやすくて、できればおしゃれな家がいいなぁ。そんな漠然とした思いはありますが、すごくぼんやりしています。家を建てると決めたら、まずはどんなことを考えたらいいんですか?

佐川:小さなことでもいいので、身近なことから考えてみましょうか。例えば、玄関にはこんなものを飾ってみたいとか、あまりお客さんを呼ぶほうではないから、玄関には子どもたちのコンパクトな収納がちょっとあればいいとか、そんなことからでいいんです。

——なるほど。トイレは2つほしい、車に乗らないから駐車場はいらない、とにかくリビングを広くしたいとか、少しだけ見えてきます。

佐川:そう、ちょっと家のことを勉強した人だと、民家風の家っていいね、板張りの雰囲気が素敵だ、となってくると思いますが、そういう要素をいくつか箇条書きにしていくと、少しずつどんな家がほしいのかというのが見えてくるはずです。

——家を建てる前に自分たちでできることですね。

佐川:私たち建築家というのは、生まれた土地のことや、兄弟は何人いるのか、温泉旅行が好きだとか、アンティークの花瓶を大事にしているとか、そんな雑学的な情報を施主さんから引き出して、発想を膨らませます。だから、何か一つの言葉をきっかけに、その言葉をどのように家に置き換えていくのかが、きっとその人の生き方やライフスタイルをデザインしていくということではないかな、と。

——へぇ、カウンセリングみたいですね!?

佐川:ええ。建築というのは、ある意味では、目には見えない心のひだをどのように形へと置き換えていくかという仕事でもあるということです。

——事前に何も考えずに住宅メーカーに行って相談をしてしまうと、時間も限られていると思うので、言われるがまま流されてしまいそうです。ある程度自分でも深掘りしておきたいのですが、何かいい方法はありますか?

佐川:やっぱり、自分の生き方を問答することと、本を参考にすると良いでしょう。もちろんネットでもいいのですが、なかには薄っぺらいものもあるので注意してください。本というのは出版前に何度も繰り返し推敲するから、適当に編まれていることがなく信頼性があります。だから、図書館でもいいし、自分が面白そうだと思ったものを3、4冊、パラパラと見てみることをおすすめします。その本を書いた建築家に連絡して、訪ねてみるのも一案です。

——相談しに行ってもいいということですか? 気軽にはできないような気がして……。

佐川:いいんですよ(笑)。特に今の時代は、建築家というのはもう高値の花でもないし、敷居が高いというほどでもなくなっていますから。

 

家を建てる前の、心がまえ。

——住宅展示場などを回ってハウスメーカーに相談する人も多いと思うのですが、そのメリットとしてどんなことがありますか?

佐川:一番は、比較のしやすさでしょう。比較しないと高いか安いかもわからないですから。もうひとつハウスメーカーの良さというのは、70〜80点ぐらいの家づくりをしてくれるということ。20点、30点ということはまずあり得ません。大きな企業ということもあって、その後のメンテナンスの問題や責任問題に関しても信頼できます。もちろん個人の建築士も責任をもってやるのですが、そのあたりが施主さんの見極めどころです。

——では個人の建築家さんに依頼するメリットは?

佐川:極端に言うと、建築家の場合は、30点か100点しかないんですよ。30点というのは、施主さんと相性が合わなかったとか、デザインが先行しすぎてしまって予算オーバーしてしまったとか、そういったケースですね。そして100点というのは、やはりデザインや提案に関して優れているということが挙げられますので、その経験値を踏まえて施主さんが考えている家が仮に1.0だったらば、建築家は1.2〜1.5ぐらいを提案することができる。そうすると100に近づいていくんですよ。

——でも、とにかくまずはいろいろなところに相談してみて、自分に合っているかどうかを見極めることが大事ですね。

佐川:あとは、家を建てるのは金額が大きいから、無理しないことが大事です。本末転倒になっちゃいますから。

——無理しないという言葉がすごく響きます。長い時間をかけて家づくりをするのだから、無理をすると後々つらくなりそうです。

佐川:まずは心がまえを自分たちでつくっておく必要がありますね。ちょっとキザかもしれないけれど、「心の軸」です。ぼんやりとでもいいですから。そうしないと、最終的に満足した家づくりにはならないし、誰かのせいにしてしまいがちです。豊かになるということは、選択肢が多くなるということですから、やはり軸を持っていないと迷子になってしまうでしょう?

 

「住まい方」ってなんだろう。

佐川:家を建てようとする人の8割くらいは、結婚して、子どもが生まれて、子どもが小学生くらいになるタイミングで、住まいについて初めて本格的に考えることになった、という印象があります。

——ちなみに、私自身もそうです(笑)。そこで、子どもが巣立った時のことを考えて間取りをどうするのか、悩む人も多いのではないかなと思います。

佐川:日本の場合は「子どものために」という信仰が強いですよね。だから子どもが出て行ったあとはどうするんだ?って、意外とぼんやりしちゃう。それより本当は、夫婦二人がより良く生きるためにどうあるべきかを考えるのが大事なんですよ。

——子ども中心に家を考えるのではなく、自分たちがどういう暮らしをしたいのか。日々に追われて、あまり考える機会がないかも……。

佐川:例えば、いま子どもが7歳ぐらいだとすると、20年も経たないうちに自立する可能性が高い。そうすると夫婦二人だけの生活のほうが長いはずですよね。

——本当に。夫婦で話し合うって、大事ですよね。

佐川:最近の若い世代の人たちは、男性も女性も積極的に家づくりに参加するようになったと思いますが、ひと昔前までは「俺はお金だけ出すから、あとはおまえが決めたら?」というスタンスの人も多かったように思います。

——でもそれだと、後で「なんでこんなふうにしてしまったんだ」ということにもなりますよね。

佐川:そうですね。家の中の段差ひとつとってみても、最終的に完成してみると、やっぱりもっと低いほうが良かったということがあり得ます。家を建てると必ず「こうすれば良かった」ということは起きるものですが、でもその時に、「お互いにここは議論したよね」「そうだよね」と、二人が話し合っていれば納得ができるものですよ。

——家の小さな使いづらさにも愛着を持てそうです。建てるときに「二人で話し合った」という思い出がありますから。

佐川:ええ、心がまえも大事だけど、もう一つ「感性」みたいなものも家づくりには大切ですね。例えば、床にしてもキズがついてしまいますが、「これは子どもがつけた傷だよね」と後で振り返るのも、家族としての大きな財産価値だと思う。それも私は一つの感性だと思うんですよね。

——対話があれば、ストーリーが家に生まれるということですね。

佐川:まさに、家をつくるのは、家族の物語をつくること。システム的なことばかりに偏ったり、標準的なものになりすぎてしまうと、誰にとっても使いやすい家になってしまって、住む人の姿が見えてこないものです。

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